オアシス



確か初めてこの作品の予告を見たのが、小学生か中学生の頃だったから、かれこれ20年くらい前なのかな。それからずーっと忘れられなかった。2人でダンスするところとか、時々コンジュが健常者に戻る描写とか。切なさと衝撃が入り混じっていて、ずーっと心に残っていて、いつか見なければと思っていた。

早く見れば良かったけど、何となく見るのが怖くて。とんでもない絶望を感じそうでもあるし、そんなことになったら、なんかしばらく起き上がれないような気がして。

そんなこんなでこのステイホーム中に見てみました。わたしがぐずぐずしてるうちに時代はあっという間に流れていて、街中の風景とか服装とか少し古く感じたけど。でも昔の話、と流すことができるほど単純なテーマではなくて。

この作品で一番注目されるのは、やっぱりムン・ソリの演技なんだと思うけど、ソル・ギョングもなかなか、いや、かなり怪奇的な演技ができる人なんだなって思った。


【あらすじ】

ひき逃げによる2年6か月の刑期を終えて出所した29歳の青年ホン・ジョンドゥ。実家に帰ろうと家に向かったものの、家族は引越しをしてしまい、居場所が分からなくなっていた。無銭飲食をして警察に捕まった彼の元に弟のジョンセが迎えに来る。ようやく家族と再会するジョンドゥだったが、家族に彼を歓迎する様子はなかった。

2日後、謝罪の為に事故の被害者宅を訪ねたジョンドゥだったが、家の中には脳性麻痺である被害者の娘、ハン・コンジュだけがいた。彼が彼女に話しかけていると、被害者の息子が戻ってくるも、ジョンドゥを見るなり怒って彼を追い返す。そのまま息子らはコンジュを置いて出て行ってしまい、彼女は家に1人取り残される。

コンジュが気になるジョンドゥは様々な口実を作っては彼女を訪ね、何とか彼女と親しくなろうと必死にアピールを繰り返すのだが…。

【感想】※ネタバレあります

ジョンドゥは本当にどうしようもなくて、自分の欲望のままに行動してしまう、いわゆるダメ人間。何回か逮捕歴もある。家族もそんな彼に絶望していて、なるべく関わりたくないと思ってる。でもジョンドゥ自身はそんなふうに思われていることを少しも感じとってないし、家族を思って遠慮したり我慢したりすることは一切ない。

だからコンジュをみて、可愛い!と思ったら自分の感情の赴くままに彼女にアピールしまくる。彼からすれば、彼女が自分の兄が起こした事故の被害者だということも、彼女が障害者であることも、大きな問題じゃない。大事なのは自分を知ってもらって、興味を持ってもらうこと。だからしつこく家に行って、花を届けたり、黙って忍び込んだりする。襲った後も、懲りずにいくとこがすごいと思うんだけど、コンジュの心を開くにはそれくらい強引さが必要だったのかなあと思う。いや、普通はダメなんだけど。

普通の人だったら壁を作ってしまったり、勝手に遠慮してしまったり、変に気を遣って逆に不自然になったりしてしまうところだけど、彼は誰に対しても平等。たぶん彼は自然体に過ごすことしかできない人なんだけど、それが孤独なコンジュの気持ちにぴったり寄り添ったんだよね。だからコンジュは頑張って電話してジョンドゥを家に呼んだ。

コンジュはコンジュで、感情も考えもしっかり持ってるのに、まるで空気のように扱われる日常に嫌気がさしてた。言葉を話すことができたら、こんな思いしなくて済むのにって場面が作中にも沢山あって、あー彼女はこれまで何回悔しい思いしたんだろうって想像したら悲しくなった。でも、それでも彼女は何というか、すれてない。誠実で優しくて想像力豊かで、素敵な女性。だからジョンドゥが好きになるのもわかる。  

ジョンドゥもコンジュも、社会や家族から見放されて、それぞれ孤独に生きてる。でもこの2人って、人が簡単に忘れてしまうものを忘れずに持ってるんだよなあ。だからジョンドゥの自然体のところとか、コンジュのユーモアがあるところにグッと惹きつけられてしまう。

2人がお喋りする場面は、いつも優しい。呼び名を姫様と将軍って決めるところも好きだし、何の色が好きかとか、どの季節が好きかとか何でもない話題について話す2人が可愛くて。あとはジョンドゥがコンジュのシャンプーしてあげたり、ドライヤーしてあげるところも好きだし、壁に映る木の影を怖がる彼女を、彼が優しく慰めるところも大好き。

そして何より切ないのが、コンジュが時々する、「もし自分が健常者だったら」の想像シーン。わたし、こういう「もし〜だったら」が映像化されてるシーンにすっごく弱い。。涙腺が大崩壊する。悲しいのか切ないのか何なのかよくわからないけど、ただ心がぎゅーって押しつぶされそうになる。大体、そこで描かれる想像って絶対に実現しないからかな。

またこの時のムン・ソリが可愛いんだよなあ〜。人懐っこくて、いたずら好きで。そうだよね。もし健常者だったら、2人で並んで電車に座れるし、ご飯も同時に食べられる。電車のホームで喧嘩しても、ふざけて歌ったりして何となく仲直りできる。でも、でも、それは叶わない。

このシーンをより切なくさせるのが、こういうコンジュの思いにジョンドゥが全く気付いてないところ。彼はそんな深いところまで考えないタイプだし、別に今でも十分楽しいじゃん!って感じで、それがまた彼女を余計に悲しくさせるんだよなあ。

そして一番悔しさを感じる最後の場面。ほんとにね、2人のうち、どっちかがちゃんと事情を説明できればそんなに大事にはならない。だけどコンジュは力が入れば入るほど言葉が出なくなってしまうし、ジョンドゥには元々前科があって信頼がないので誰も信じてくれない。だから2人にとってはすっごく素晴らしいことなのに、周りは大事にして騒いで2人の気持ちを引き裂いて仕舞う。

警察署の事情聴取のあと、ジョンドゥが連れて行かれてしまう場面。何とかしたいコンジュは力一杯、自分を壁に打ち付ける。この場面ほんとにほんとに苦しかった。あーもうわたしが代弁してあげたい〜って思った。言葉で説明したくても、義姉が邪魔してうまく話せなくて、誰もコンジュの話を聞いてくれない。周りの勝手な意思でどんどん進んでいってしまう。その流れを何とかせき止めようとして、何回も何回も壁にぶつかっていったんだよね。誰か1人でもちゃんと聞いてくれたら。

警察署の場面で、すごく良かったのがジョンドゥの弟。僕の人生邪魔しないでねって言いながら、いっつも庇ってくれる優しい弟。お兄さんは何ていうか、いや、ただの最低な人間じゃん!!って感じなんだけど、弟はジョンドゥの意思を尊重してあげようとする。家族に見放されたと思ってたけど、弟には愛されてるんだよね。

そんな状況で牧師さんがきて、ジョンドゥのために祈ってくれようとするんだけど、その瞬間にジョンドゥは警察署を脱走する。でも逃げたのは、自分のためじゃない。コンジュのため。壁に映る木の影を怖がっていた彼女のために、木を切りに行く。周りに止められながらも黙々と木を切り続けるジョンドゥ。その様子をみて、何とか答えたくてラジオの音を全開にするコンジュ。

ほらね、2人はちゃんと繋がってるし、わかり合ってる。ちゃんと見れば理解できるのに。でもちゃんと見なきゃ、わからない。ジョンドゥのこともコンジュのことも、2人のことも。木を切り終わったジョンドゥがさけぶ、姫様って言葉が頭の中で切なく反響する。


そしてラストシーン。手紙の描写、最高。もう離れ離れになって終わってたらほんと絶望感から這い上がれなそうだったけど、最後の手紙の場面でほっこりした。

普通に考えたら2人に未来なんて、ないよね。けど2人にとって大事なのは未来じゃない。いま、きょうという日をちゃんと幸せに過ごせるかどうか。今日が楽しければとりあえずそれでいい。先のことは誰にもわからないし。だからジョンドゥは姫様宛に手紙を書き続けるし、コンジュはその手紙を読みながらジョンドゥがまた来てくれるのを待つ。2人にとってはそれこそが大事な日常だから。

自分のことばっかり優先するジョンドゥだけど、最後までお兄ちゃんの罪を被り続けたところに意志の強さを感じる。あんなにフラフラ生きてたら誰かしらに言っちゃいそうなのに。でも言わないんだよね。それくらい、家族に迷惑かけたって自覚してるから?かな。


一回見ただけで、もう言葉が止まらないくらいの感想が出てくるので何回も見たらどうなっちゃうんだろう。誰かが、「この映画を見た時、これ以外の映画は見なくてもいいと思うくらい感動した」って書いててうーん!まさに!と思った。この作品を作ってくれてありがとうございますとお礼が言いたい笑。それくらい好き。

監督の他の作品を見てみようかなと思うんだけど、結構メンタルにずしんと来るので、元気な時を見計らってみようかな。。次はペパーミントキャンディーかな、やっぱり。いつかは見ないと思っているけど。。これも時間が空いちゃいそう。



m e t e o r

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